とある事情から英語版のヤフーメッセンジャーをコンピュータに入れて、せっかくIDも取得したのだからとちょっとした好奇心から Yahoo.com のチャットルームを覗いてみたのがそもそもの間違いのはじまりなのであって、何だかよくわからないうちにそこに二時間もいるはめになってしまった。はあ、なんて思わず溜息が自然に出てしまうほど私は疲れはててしまった。はあ。あまりにも疲れたので長い文章を書く気にはとてもなれない。よって以下では簡潔に細切れの断章形式で事の次第をお伝えすることにする。って、まあ別にお伝えなんてしなくてもいいのかもしれないけれど。はあ。
○
私は Yahoo.com のインスタントメッセンジャーとそのIDを取得した。なぜならば、必要だったからである。
私は Regional: Japan というカテゴリーのチャットルームに入った。なぜならば、別に興味の持てるカテゴリーも見つからなかったからである。
ではなぜチャットをしようなんて私は思ったのか? 正直に言うと、よくわからない。ただ何となくとしか言い様がない。そういうことってよくある。
チャットルームに入ると、一分も経たないうちにプライヴェートメッセージのウィンドウが五つほど花開いた。やけに派手なやつもあって、最初これらはてっきりスパムだと思ったのだが、どうやら違うらしい。
一対一でのチャットのお誘いである。
ちなみにお誘いのメッセージたちはこんな感じ ―― 「 hi 」 「 ur a/s/l plz 」 「 hi, how r u? 」 「 r u busy? 」 「 konichwa 」などなど
u が you 、 r が are 、 konichwa がこんにちはであることなどは容易に想像がついたが、a/s/l というのが何のことやらさっぱりわからない。調べてみると、「年齢・性別・住所」の略語であるらしいことが判明した。はあ。
話は変わるが、今のインスタントメッセンジャーはなかなか高機能だ。音声でのチャットは充分実用レベルにあるし、カメラさえあればリアルタイムで映像も送れる。ファイル交換だって簡単だ。
ところで、「 ur a/s/l plz 」のメッセージウィンドウではアニメーションがうごめき、そのアニメーションがこちらに派手な音つきのキスマークを投げかけている。彼(彼女)のIDはホットマン何とか。
勘弁してくれないか?
で、ためしにひとつのメッセージに返事をしてみたら、即座に性別を訊かれた。答えたところ、お前はややこしい奴だなとか何とか、友好的とは言いがたい口調でののしられてしまった。そして彼(彼女)はあっさりと去っていった。
なぜ彼(彼女)はそんな態度をとったのか?
彼(彼女)は私のIDネームを見て、日本人の女性だと勘違いしたのだ。彼(彼女)は言った。「紛らわしいIDつけてんじゃねーよ!」
そんな国際交流。
そうこうしているうちにもメッセージウィンドウは次次と開き続ける。そのうちのひとつにはこうあった ―― 「カリフォルニアに住むパキスタン人。二十七歳。コンピュータ・エンジニアリングを勉強しています」
彼は大文字と、コンマと、ピリオドの使い方を心得ていた。六つ以上の単語を使って文章を組み立てることだってできた。
何となく話が通じそうだと思ったので返事をしてみた。ちゃんと私の a/s/l を添えて。
すると彼はこう言った。「俺、本当は英会話学校に通ってるだけなんだよね」
いい奴じゃないか。
ところで、彼のメッセージにはこんな謎の記号が添えられていた ―― lol
ロルって何だ? 何かの種類の顔文字か?
よく見てみると、チャットルームのほうでもこの謎の記号は頻繁に使われている。なかには、やたらと続けて lolololol とつぶやいているひともいる。調べてみたら ―― lol は Laughing Out Loud の略語、つまり(笑)と同じような意味らしい。
ロルロル。
で、そんなこんなでだんだんとわかってきたのだが、というかチャットルームに入る前から察しているべきだったのだけど、チャットでの発言内容とその発言者のIDを見るかぎり、ここのメンバー構成はだいたい以下のとおりのようだ。
1.日本の女性とお話をしたい外国の男性(これがメンバーの大部分)
2.外国の男性とお話をしたい日本の女性(人数はとても少ない)
3.ただ単純に日本が好き(ほんのちょっと)
4.私(ひとり)
生きていくって難しい。
1番と2番の方がたとコミュニケーションをとるのはとても難しそうだったので、3番のひとと話をしてみた。
どこの国か忘れてしまったけれど東南アジアに住む十八歳の男性。彼はこんなことを話してくれた――
「やあ」 「女の子?(違う)」 「何だよ(ごめん)」 「ところで俺は日本のアニメが大好きだ」 「ロル」 「特に○○と××と△△!!」 「さいきん観た□□はクールだった。お前は観たか?(知らない)」 「なぜ観ない?(さあ?)」 「俺は☆☆の mp3 を持ってる。**の動画も」 「欲しいか?(別に)」 「何かいいの持ってない?(すまん)」 「……お前ここで何やってんの?(私も知らない)」 「え? なぜ日本のアニメが好きかだって? それは最高にクールだからだ」 「ていうか日本自体がクールだ」 「だろ?」 「俺はいま日本語を勉強している」 「ハジメマシテ」 「アナタ ニホンジン ナンデスカ」 「で、誰か女の子のID知らない?(知らない)」 「ほんとに?(ほんとに)」 「ところで日本の女の子ってどう?」 「クール? キュート?」 「どんな感じ?」 「つーか実際のとこどう?」 「ロルロル」 「教えてくれー」
(註:過激な表現は穏健なものに変えてあります)
そのあと、どういう経緯だったかはもう忘れてしまったけれど、彼とは浜崎あゆみと『名探偵コナン』の話をした。そんな国際交流。
私はいったい何をやっているのだろうか?
いつのまにか二時間が経っていた。私はとても疲れた。こんなに疲れたことなんてあまりなかった。私はチャットルームをあとにした。モニターを見続けたせいで眼が痛かった。
そして私はぐっすりと眠った。夢は見なかった。夢なんて見るはずがなかった。
これは、そんな国際交流のささいな記録である。
おしまい。
○
以下は余談。
チャットルームではとにかくみんなやたらと張り切っていた。まあ、わからなくはない。でもキスマークを送る前には相手の性別を確認するべきだと私は強く主張したい。
何だかやけに東南アジアのひとが多かったけれど、それが時間帯によるものなのか、それともいつもそうなのかはわからない。
インドのひとは英語がうまい。カレーについてはよく知らないけれど、ささいな嘘をつくひとはけっこういるようだ。
インド人嘘つく。
褒め言葉は常に「クール」。軽い相槌だって「クール」。これさえ知っていればきっとチャットでやっていける。ひとつ註釈 ―― クールは kool とか、 kewl とか、 kl とかと綴ること。
はあ。
IDはとても重要だ。気をつけろ。
ロルロル
あと、いつのまにか私のメッセンジャーのフレンドリストにひとり名前が載っているんだけど、どこの誰なのかさっぱりわからないし、どんな話をしたのかも憶えていない。こういうのは勝手に消しても失礼には当たらないのだろうか?
で、結論として、私はとても疲れた。
はあ。
何だかこんな感じ。
こちらからは以上だ。君の健闘を祈る。
おしまい。
ロルロル。
はあ。
○
私は Yahoo.com のインスタントメッセンジャーとそのIDを取得した。なぜならば、必要だったからである。
私は Regional: Japan というカテゴリーのチャットルームに入った。なぜならば、別に興味の持てるカテゴリーも見つからなかったからである。
ではなぜチャットをしようなんて私は思ったのか? 正直に言うと、よくわからない。ただ何となくとしか言い様がない。そういうことってよくある。
チャットルームに入ると、一分も経たないうちにプライヴェートメッセージのウィンドウが五つほど花開いた。やけに派手なやつもあって、最初これらはてっきりスパムだと思ったのだが、どうやら違うらしい。
一対一でのチャットのお誘いである。
ちなみにお誘いのメッセージたちはこんな感じ ―― 「 hi 」 「 ur a/s/l plz 」 「 hi, how r u? 」 「 r u busy? 」 「 konichwa 」などなど
u が you 、 r が are 、 konichwa がこんにちはであることなどは容易に想像がついたが、a/s/l というのが何のことやらさっぱりわからない。調べてみると、「年齢・性別・住所」の略語であるらしいことが判明した。はあ。
話は変わるが、今のインスタントメッセンジャーはなかなか高機能だ。音声でのチャットは充分実用レベルにあるし、カメラさえあればリアルタイムで映像も送れる。ファイル交換だって簡単だ。
ところで、「 ur a/s/l plz 」のメッセージウィンドウではアニメーションがうごめき、そのアニメーションがこちらに派手な音つきのキスマークを投げかけている。彼(彼女)のIDはホットマン何とか。
勘弁してくれないか?
で、ためしにひとつのメッセージに返事をしてみたら、即座に性別を訊かれた。答えたところ、お前はややこしい奴だなとか何とか、友好的とは言いがたい口調でののしられてしまった。そして彼(彼女)はあっさりと去っていった。
なぜ彼(彼女)はそんな態度をとったのか?
彼(彼女)は私のIDネームを見て、日本人の女性だと勘違いしたのだ。彼(彼女)は言った。「紛らわしいIDつけてんじゃねーよ!」
そんな国際交流。
そうこうしているうちにもメッセージウィンドウは次次と開き続ける。そのうちのひとつにはこうあった ―― 「カリフォルニアに住むパキスタン人。二十七歳。コンピュータ・エンジニアリングを勉強しています」
彼は大文字と、コンマと、ピリオドの使い方を心得ていた。六つ以上の単語を使って文章を組み立てることだってできた。
何となく話が通じそうだと思ったので返事をしてみた。ちゃんと私の a/s/l を添えて。
すると彼はこう言った。「俺、本当は英会話学校に通ってるだけなんだよね」
いい奴じゃないか。
ところで、彼のメッセージにはこんな謎の記号が添えられていた ―― lol
ロルって何だ? 何かの種類の顔文字か?
よく見てみると、チャットルームのほうでもこの謎の記号は頻繁に使われている。なかには、やたらと続けて lolololol とつぶやいているひともいる。調べてみたら ―― lol は Laughing Out Loud の略語、つまり(笑)と同じような意味らしい。
ロルロル。
で、そんなこんなでだんだんとわかってきたのだが、というかチャットルームに入る前から察しているべきだったのだけど、チャットでの発言内容とその発言者のIDを見るかぎり、ここのメンバー構成はだいたい以下のとおりのようだ。
1.日本の女性とお話をしたい外国の男性(これがメンバーの大部分)
2.外国の男性とお話をしたい日本の女性(人数はとても少ない)
3.ただ単純に日本が好き(ほんのちょっと)
4.私(ひとり)
生きていくって難しい。
1番と2番の方がたとコミュニケーションをとるのはとても難しそうだったので、3番のひとと話をしてみた。
どこの国か忘れてしまったけれど東南アジアに住む十八歳の男性。彼はこんなことを話してくれた――
「やあ」 「女の子?(違う)」 「何だよ(ごめん)」 「ところで俺は日本のアニメが大好きだ」 「ロル」 「特に○○と××と△△!!」 「さいきん観た□□はクールだった。お前は観たか?(知らない)」 「なぜ観ない?(さあ?)」 「俺は☆☆の mp3 を持ってる。**の動画も」 「欲しいか?(別に)」 「何かいいの持ってない?(すまん)」 「……お前ここで何やってんの?(私も知らない)」 「え? なぜ日本のアニメが好きかだって? それは最高にクールだからだ」 「ていうか日本自体がクールだ」 「だろ?」 「俺はいま日本語を勉強している」 「ハジメマシテ」 「アナタ ニホンジン ナンデスカ」 「で、誰か女の子のID知らない?(知らない)」 「ほんとに?(ほんとに)」 「ところで日本の女の子ってどう?」 「クール? キュート?」 「どんな感じ?」 「つーか実際のとこどう?」 「ロルロル」 「教えてくれー」
(註:過激な表現は穏健なものに変えてあります)
そのあと、どういう経緯だったかはもう忘れてしまったけれど、彼とは浜崎あゆみと『名探偵コナン』の話をした。そんな国際交流。
私はいったい何をやっているのだろうか?
いつのまにか二時間が経っていた。私はとても疲れた。こんなに疲れたことなんてあまりなかった。私はチャットルームをあとにした。モニターを見続けたせいで眼が痛かった。
そして私はぐっすりと眠った。夢は見なかった。夢なんて見るはずがなかった。
これは、そんな国際交流のささいな記録である。
おしまい。
○
以下は余談。
チャットルームではとにかくみんなやたらと張り切っていた。まあ、わからなくはない。でもキスマークを送る前には相手の性別を確認するべきだと私は強く主張したい。
何だかやけに東南アジアのひとが多かったけれど、それが時間帯によるものなのか、それともいつもそうなのかはわからない。
インドのひとは英語がうまい。カレーについてはよく知らないけれど、ささいな嘘をつくひとはけっこういるようだ。
インド人嘘つく。
褒め言葉は常に「クール」。軽い相槌だって「クール」。これさえ知っていればきっとチャットでやっていける。ひとつ註釈 ―― クールは kool とか、 kewl とか、 kl とかと綴ること。
はあ。
IDはとても重要だ。気をつけろ。
ロルロル
あと、いつのまにか私のメッセンジャーのフレンドリストにひとり名前が載っているんだけど、どこの誰なのかさっぱりわからないし、どんな話をしたのかも憶えていない。こういうのは勝手に消しても失礼には当たらないのだろうか?
で、結論として、私はとても疲れた。
はあ。
何だかこんな感じ。
こちらからは以上だ。君の健闘を祈る。
おしまい。
ロルロル。
はあ。
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